塾講師へのこんな質問
男性の三〇代後半と四〇代前半の高卒でやや短期勤続化がみられること、定年延長や六〇代前半層の継続雇用の影響で、五〇代後半の男性に勤続年数の長期化傾向が見受けられることが特徴である。
前者の動きがあたかも社会全体の動きのように過大に報道された可能性が高い。
新卒で就職し定年まで働く人は減っているのか「終身雇用」の最もきびしい定義は、学校を卒業して入社した企業に定年まで働きつづけ、定年退職するというものである。
こうした人は実は従来から少ないが、こうした人が近年減少したという証拠ほどの程度あるだろうか。
一つあげるとすれば、希望退職や早期退職優遇制度による退職金割増による退職が、深刻化する不況のなかで大幅に増加したという事実だろう。
日本労働研究機構が、従業員三〇〇人以上の企業を対象に二〇〇二年一~二月にかけて実施した『事業再構築と雇用に関する調査』によれば、人員削減の方法としては、全体では、「自然減」「採用抑制」がそれぞれ八割程度と主流であるが、「希望退職の募集、早期退職優遇制度の創設・拡充」が実に三四・二%に達している。
なお、本人希望ではない「解雇」は六・九%となっている。
注:年齢50~54歳,高卒は勤続30年以上大卒は勤続25年以上で,民営企業の一般労働者を標準労働者と定義した。このように、とくに希望退職の募集や早期退職優遇制度の創設・拡充による雇用関係の終了が多発しているのはまちがいのない事実であるが、これは必ずしも日本全体でみて、定年退職者が減少したということを意味するわけではない。
これを数的に確認する資料はここでも『賃金構造基本統計調査』である。
五〇歳から五四歳の民営企業に働く一般労働者男性について、試算したのが図表4-5である。
これから何がわかるだろうか。
一九八六年には、新卒か新卒後二、三年で就職した企業に働きつづけている人は高卒で二七・九%にすぎなかったが、一五年後の二〇〇一年では四るが、この一五年間で、新卒後定年まで働く人が減ったとはとてもいえないことがわかる。
むしろそうした人は増えているのである。
また大卒についても低下傾向はまったくない。
つまり、新卒で定年まで働くのを終身雇用と呼ぶのであれば、終身雇用はまったく崩壊していないのである。
むしろ高学歴化を考慮すれば、この意味での終身雇用は強化されているというべきである。
企業は整理解雇しなかったか日本の企業、とくに大企業は不況時に従業員を解雇してこなかったのであろうか。
そんなことはない。
企業が倒産の危機にあるのに従業員を整理解雇しないことなどありえない(5)。
たとえば、第一次オイルショック(一九七三年)のとき、整理解雇は広範におこなわれた。
労働省『雇用変動総合調査』(一九七九年)によれば、調査事業所の一九・四%が解雇をおこなった。
従業員一〇〇〇人以上の大企業でも例外ではない。
二〇・三%が解雇を実施した。
一〇〇~九九九人規模では約三〇%の企業が解雇している。
今までも不況ならば解雇していた。
景気がよいときに解雇する企業は少ないだろう。
現在のような長期間にわたる不況は第二次世界大戦後はじめてである。
したがって、解雇をする企業が増えているにすぎない。
もちろん、こうした比率の高まりが人々の雇用の安定度に対する意識を変えてきていることは事実だろう。
大企業でも倒産するという当たり前のことを当たり前と思っていない人は減少した。
しかし、それは企業行動が変化したというよりも、人々の意識が変化したというほうが正しいだろう。
また、希望退職も以前からある。
近年の変化は、先にも述べたように、早期退職優遇制度と希望退職の一般化であろう。
希望退職の募集に希望者が殺到するという事態が最近よくみられる。
従来、マスコミミは「希望退職」を肩たたきや嫌がらせとしてしか理解してこなかった。
この不況下でこの常識が通じなくなっている。
労使関係からみれば、成熟化といえるだろう。
労使双方が納得して退職するからである。
もちろん、肩たたきや嫌がらせがなくなっているわけでない。
それでも、納得した退職が増えてきたことは望ましい傾向であるといってよい。
もし本当に納得して退職するのであれば、長期安定雇用は維持されているといえるかもしれない。
意識は変わったか先に引用した『構造調整下の人事処遇制度と職業意識に関する調査』(一九九八年)によれば、現時点では、「原則として、定年まで雇用してきた、または定年後も一定期間、勤務延長や再雇用で働いてもらう」という終身雇用の考え方が、八割に達している。
このほか「必ずしも定年まで雇用するということではなく、中高年齢者等について関連会社、子会社に出向をすすめる」が七~二%である。
この二つを広い意味での安定雇用とみなせば、実に九割の企業が安定雇用を支持している。
他方、「若いうちから独立や転職が多い」はわずか一~五%にすぎない。
企業は必ずしも「終身雇用」をやめてしまおうと思っているわけではない。しかし、今後の展望についてみると、こうした安定雇用志向は若干低下している。
今後については「終身雇用」の考え方は六割程度に低下し、「必ずしも定年まで雇用するということではなく、中高年齢者等について関連会社、子会社に出向をすすめる」が二~三割に高まる。
これは企業そのものが成長あるいは存続に不安を抱いているからである。
それでも安定雇用志向は八~九割もある。
つまり、正社員に対しては、安定雇用を一定程度維持しようとしている。
ただ、企業は従業員に対して雇用しつづける責任をもつという考え方(雇用責任)については、従来より少し弱めようとしているようにみえる。
今後の採用政策については「パート、アルバイトなどの非正社員を活用していく」(四六・八%)と「新規学卒をより重視していく」(四五・五%)が多く、ついで「中途採用を増加させる」(三七・二%)となっている。
このほか「派遣社員を積極的に受け入れる」(一八・一%)、「他社の優秀な人材を積極的にスカウトする」(一三・四%)など外部人材の積極的な活用や、高齢化に対応した「定年後の自社社員の再雇用・勤務延長を促進する」(二二・一%)がみられる。
また、「従業員全体の採用を抑制する」(二一・九%)や「正社員の採用を抑制する」(一八・九%)など採用を抑制する企業も少なくない。
興味深いのは、新規学卒の重視である。
これは今まで新卒をとれなかった中小企業が、新卒への新規雇用意欲をもっているものとして注目される。
さて、ここで重要なのは、規範としての長期安定雇用のゆらぎであろう。
先にみたように、雇用の流動性や新卒から定年までの雇用という観点からすれば、終身雇用あるいは長期安定雇用が変化したとはいいがたい。
また企業は経営不振に陥れば、整理解雇を実施してきた。
つまり現在終身雇用が崩壊したといわれているのは、実は経営不振企業が多くなったということにすぎないのである。
もちろん、この量的な関係が質的な影響を与えていることはまちがいない。
一つは、終身雇用といわれる経営者にとっての社会的な規範の弛緩である。
もう一つは個人の誤解、つまり企業はつぶれない、整理解雇(会社都合離職)をしないという誤解が解かれたことである。
前者は、正社員を解雇することが経営者として失格であるという社会的な規範が緩んだことである。
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二〇・三%が解雇を実施した。
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また、希望退職も以前からある。
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